「新・幕末純情伝 FAKE NEWS」についての雑感。
えー「男も女もない社会」なんていうのは遠い先の話なのかと感じるようなニュースも飛び込んでくる昨今でございますが…
「新・幕末純情伝 FAKE NEWS」についての雑感を書いていこうと思います。
前回の2016年版では無かった桂のシーン、二宮のシーンが追加され、代わりに繰り返していた似たようなシーンを削ったことで、かなり話がすっきりとわかりやすくなった今回の新幕末。
ただまあ、前回よりは面白く観たんですが、やっぱりそんなに私にとって好みの話ではないなーとは思ったりしました。
なんであんまり好みじゃないなーと思うかというと
- 坂本龍馬が言ってることの矛盾をどう解釈したらいいかもやもやする
- 昭和的なエロ下ネタが特に面白くない
- 作者の家族観になんか悲しくなる
ってあたりが大きな理由かな…と。
坂本龍馬の矛盾
「男も女もない」と言いながら「女は女らしく」「女はみんな美しくあるべき」「義母に尽くす良い嫁」という価値観も語る龍馬。
先進的な思想を持った人物のようでそうでもない古臭さ。
まあ相手が総司という「相手に呼ばれた通りになっちゃう」「誰かの為にしか動けない」感じの子だから、という解釈もできますが…
わかりやすく矛盾してるので意味ある矛盾なんだろうとは思うんですけど、いっそ矛盾性をもっと強調した方が現代的になるんじゃないかとも思ったりします。
そもそも主要登場人物に男性いっぱい:女性1人でジェンダーの話するのも無理があるとは思いますが…男性にいろんな人が居るように女性もいろんな人がいるので…1人を女性代表みたいには書けないよ…
昭和的なエロ下ネタ
めちゃめちゃ抵抗あって不快!無理!って訳でもないんですけど特に面白くもないな…という感じ。
でも味方龍馬は下ネタ言ってもハキハキしすぎて小学生みたいなので面白くもないけど「元気のいい男子だな」とは思った。
下ネタ言ってるのに声は割とピューロランドみたいなトーンなので下ネタ感はない。下ネタ光学迷彩と名付けたい。
あと下ネタでもないけど「好きです!やりたいです!」の言い方は完全に小学生だったと思う。
総司が「はい!よく言えました!」って言わないのが不思議なレベル。
勝に対しての「思い出して欲しいんです!!」のとこもだいぶ小学生みがあった。
でも人に何か解説してる時は小学校の先生みたいになるので、坂本龍馬=小学校なのでは?ここに小学校を建てよう(在籍数1名)。
色々言ってるけど小学校みたいな坂本先生のこと私は好きです。
作者の家族観が悲しい
これはもうなんか…「結婚」って言葉自体はやたら出てくるじゃないですか。
でも結婚後の「生活」みたいなイメージは殆ど出てこない。
土方と畑耕すくらいじゃないかな…家事とか育児とかはほぼ出なかったはず。
なんか全体的に「幸せな家庭」への憧れはすごい感じるんですけど、具体的なイメージって出てこない。
龍馬の母と姉くらい?でも基本「嫁を自慢する対象」だし…
「父親」は勝の父しか出なくて「迷惑」「不幸の元」みたいな描かれ方をしてる。
「幸せな家庭」も、そこにいるはずの「幸せな父親」も、具体的なイメージが出てこない。
それがなんか…考えたらめっちゃ悲しくなるんですよね…
で、登場人物中でも結婚したがってて家庭への憧れが強そうな準主役と言える「坂本龍馬」役ですよ。
ご結婚されて双子の娘さんが生まれて、めちゃくちゃ子煩悩で夜中までお世話して幸せそうなパパですね。
今回の味方さん。
家事めちゃくちゃ得意な上に子どもの世話も大得意。生活感がしっかりある家庭的な男性ですね。
いやもう…役とのギャップがすごすぎて…さらに坂本龍馬がかわいそうになってきちゃってですね…
そんでもってこんなことを考えてる私だって別に幸せな家庭がイメージできない悲しさが理解できてる訳ではないじゃないですか…
もう全体的にどうしようもなさが悲しくなってきますよね…
まあそんなこんなで「好みの話じゃないな」と思いながらも楽しくは観れていたんだから、今回の新幕末はすごかったんじゃないかなと思います。
キャストみんなすごかったよ!ということでメインキャストのみですが感想を。
北原里英:沖田総司
その場その場の感情をすとーんと素直に演じられてるという印象。
全体としては矛盾感も出るんだけど、その違和感が逆に「そういう総司」としてよかったと思う。化け物感、異物感というか。
あと二宮とのシーンとか、感情を殺したような暗い声がすごく良かった。
小松準弥:土方歳三
すごくちゃんと「顔がいいだけの明るいバカ」になってた!
「軽くてアホで調子良くて女の子と楽しく生きてるべき人」という説得力。
前回の細貝さんだとちょっと重すぎて土方という人物にあんまり納得いってなかったので、すごくわかりやすかった。
田中涼星:桂小五郎
「幽劇」の時から思ってたけど田中くんはものすごく「暴れ力」がある人ですね…!!
長い手足で盛大に暴れてるのを見ると清々しくてちょっと笑ってしまう。なんかごめん。
そしてちゃんと「悪役」の桂さんだった。今思うとあの頃の味方さんはちょっと悪役力が足りてなかったな…
日替わりは一体なんなのか全くわからないカオスなシーンになっていて感心しましたが毎回頭は抱えたくなりました。よくあんなカオスなネタばっかり思いついたね…!?
増子敦貴:二宮
いやー本当、上手になったね…!!
前の熱海も個性的で良い演技ではあったんだけど、いかんせんめっちゃ噛んでた印象もあったので…
めちゃめちゃ良くなっててびっくりでした。今後も楽しみです。
松村龍之介:岡田以蔵
殺陣がうめえよ…!!
そして、がなる声にちゃんと迫力がある。
それでいてカッコつけるところはちゃんとカッコよくできる。
本当に素敵な役者さんだなぁと思いました。
そしてブログで…めちゃめちゃ味方さんのこと上げてくれてありがとう…!!
そして、俳優 味方良介。良介くんに出逢えて良かった。あなたの坂本龍馬を以蔵として支えられて良かった。稽古場でも、本番に入ってからも、たくさんお世話になりました。この人が言う事は間違い無い。だから信頼出来る。悔しいけれど敵いません。今は。僕はどうやら、同年代として1番尊敬し、1番負けたくない人に出逢ってしまったようです。
本当に…ありがとうのすけくん…!!
細貝圭:勝海舟
味方良介:坂本龍馬
いやーもう本当に毎回思ってるけど国宝級の喉よありがとう…
韻文を音にするために生まれてきたような声だよ…
今回はブログなどでも度々言っていたように「主役を立てる」ことを意識していたのが伝わってきました。
そしてこれだけは言っておきたいのですが、千秋楽のペリー提督(オペラ座の怪人)は反則すぎるよ!!
いやー本当…実は千秋楽のジェットストリームで少し噛んだ瞬間に過去の悪い思い出*1が走馬灯のように過ってしまって、一瞬めちゃくちゃ心がざわざわしてしまったのですが、予告編で登場した瞬間に全てが吹き飛びました。
まずタキシードだとスタイルがジャージの300倍良く見える…!
さらにあのオペラ座マスクが似合いすぎる…!!
肩のエポーレットも似合ってたよ…!!
歌も少しだったけど歌ってくれて…もっと落ち着いてしっかり聞きたかった…日本語バージョンでしたよね?また聴きたい…!!
さて、そんな推しを追いかけてるうちに「熱海殺人事件」と「新幕末純情伝」を2バージョンずつ観劇したわけですが。
この作者、つかこうへいという人が言いたかったことってなんだんだろうな、ということを考えたりします。
そのうちの1つは「大衆の反応」によって「スター」がどれだけ傷ついたり迷惑被ったりしてるかって話なんじゃないか、と最近私は思いました。
最近見たツイートに、「大衆の反応」とは「相手への無理解と無遠慮」という言葉があって
しかし個々の発言が役に立たなくても、それがマスになって押し寄せてくるとよくわかることがあって、「大衆の反応」とはそういった「相手への無理解と無遠慮」そのものであるという実感である
— 増田聡 (@smasuda) August 1, 2018
これを読んだ時に、二宮や大山の行動を思い出して、どちらも「悪人」ではないはずなのに「相手への無理解と無遠慮」によって誰かを殺そうとしてしまったんだろうな、と思ったのでした。
そしてどちらの作品にも根底に流れるのは「人と人はわかりあえない」ってことなんじゃないか、とも思います。
無責任な「心の繋がり」を描かないということが、この作者なりの誠実さだったんだろうなと。
無理解があったり、つい無遠慮になったりというのは、誰でもやっちゃうことなんじゃないかと思います。
ただ、なんとか踏ん張って誠実ではありたいし、誰にだって「私の知らない事情がある」のは忘れないようにしたいなと思います。
結局、基本は相手が誰でも「僕と君との楽しいあやとり」しかないんじゃないかな。
私も日常でちゃんと「あやとり」できてるか、自信はないけど…繰り返して学ぶしかないので、明日も新しい誰かとの「あやとり」を楽しもうと思います。
おやすみなさい!
*1:WaW千秋楽で客席通路から登場した際、階段に少し躓いた。その後のアンコールで中々出てこないな…と思ったら推し、頭にタオルぐるぐる巻きで登場。頭を縫うほどの怪我だった