「熱海殺人事件」遠征日記。
これはただの遠征日記です。
スーツケース
無駄に重たいスーツケースをゴロゴロと引き摺りながら早朝の新宿を歩く。
これといった特徴もないベーシックな四輪のカバンは神戸三宮の地下にある専門店の店員さんがお薦めしてくれたお買い得品だ。なんだかんだで気に入っている。
「得をした」ということが気にいる理由になってしまうあたりが関西人だ。どうにも自分は関西人であることをついアイデンティティの拠り所にしようとしてしまうところがある、大して面白い人間でもない癖に。
風呂に入る
向かう先は新宿の日帰り温泉「テルマー湯」である。
夜行バスで東京に着いたらなるべく早く風呂に入らなければならない。出来るだけシャワーでなく湯船に浸かりたい。
この後マチソワ連続観劇するのに、湯船に浸かってバスの狭い座席で寝た身体を温めほぐしておかなければ体力が持たないのである。
着いたら風呂に入ると決めておけばバスも楽な格好で乗れるし、歯磨きや化粧など身支度を整えるのも楽だ。
それなりの金額はするけれど、バス降り場からもそこそこ近いしアメニティも揃っているのでそれだけの価値があると思う。
化粧
風呂で温まってから化粧をする。
今回、推しの味方さんは木村伝兵衛部長刑事という役で、青いアイシャドウを塗っている。
青というか、水色のシャドウをがっつりと「舞台化粧」という感じではっきり発色するように塗っていて、これを全くそのまま真似するのはなかなか厳しいものがある。
全く同じに真似することはできないまでも、青系のシャドウを使ってみるくらいはしてみたい。
ということで、今回のために2種類のアイシャドウを買った。
エクセル シャイニーシャドウ アイスグレー
塗るとうっすら青っぽくなる。ラメがキラキラして綺麗で透明感が出る。
これをベースというか、まぶた全体に塗る。
POSME Play Color Chip ブルーベリー
試供品みたいな感じでペロッとめくって使えるクリーム状のコスメ。
6枚セット300円なので、あまり使わない色味でも罪悪感がない。人に配れるし。
ブルーベリーは水色じゃなくてネイビー系だけど、締め色には良いかなと思ったのでこれで。青系にできただけで満足。
発色は割と薄づきで使いやすかった。
推し色が普段あまり使わない色味で、プチプラでも余らせるのが勿体無いな、と感じる方にはお薦めしたい。まだカラバリは少ないけど…
美容室
「テルマー湯」の閉館は朝9時。身支度を整えて向かう先は学芸大学駅である。
先日推しが珍しく美容室の紹介をしてくれた。
そもそも店を宣伝するようなことが滅多にない推しなので、せっかく宣伝してくれたのだから宣伝効果を示さねばならないと思い、ググってホットペッパーから予約した。
店に入ってすぐに「味方くんの宣伝からきました」と言ったら美容師さんはとても喜んでくれた。いい人だ。
あのブログから何人くらい来たか聞いてみたら、それを言ってきたのは私が初めてだという。
「言わずにこっそり来た人もいたかも」と美容師さんからのフォローも入ったが…そうだと良いんだけど…
美容師さんは本当に優しくて素敵な方で「なるほど、この美容師さんを信頼しているからこそ推しはこのお店を紹介したんだろうな」と思った。
同時に「自分のファンのことも、この美容師さんに迷惑をかけたりしないだろうと信頼しているからこそ紹介したんだろう」とも思ったので「迷惑に思われるようなことは絶対にしないぞ!」と、シャンプーされながら決意を新たにした。
私が店を出る最後まで本当に美容師さんは良い人だった。きっと推しのような良い人の周りには良い人が集まるんだろうな、と思った。
アクセサリー
私は普段あまりアクセサリーをつけないのだが、今回の観劇のために持ってきたアクセサリーが2つあった。
オニキスの指輪
ゲネプロの写真を見たときに、木村伝兵衛の指に黒い石のついた指輪がはまっていることに気付いた。
大きな黒い石、多分オニキスかな、と思った。
迷いのない信念、成功の象徴、魔除けの石…確かに木村伝兵衛にぴったりだ。
古い友人から、高校生くらいの頃にもらった指輪があった。オニキスの指輪だ。
デザインは全く違うけれど、黒い石のついたシルバーの指輪。これは折角なのでつけていかなくては、と思い持ってきた。
菊の花弁をイメージしたペンダント
去年の「熱海殺人事件」の時に、初見で大興奮した私は空き時間にふらふらと新宿のパーツクラブへ寄った。
アクセサリーパーツの専門店である。ここであの舞い散る菊花を思い出しながらパーツを見た。
細長いマルキーズカットで、綺麗な曇りガラスのパーツがあった。1枚の菊の花弁をイメージできた。
店員さんに「これ1つだけのペンダントを作りたいのですが」と頼んで他のパーツを揃えてもらった。作り方も教えてもらって、その場で組み立てた。
その後の公演はそれをつけて観劇した。誰も私のペンダントなんて見なかっただろうけど、自分の理想的なペンダントを自分で作って付けていることに自分で満足していた。
今年もその時に作った菊の花弁のペンダントを付けて観劇した。今年は運良く菊を浴びる席に座ることもできて本当に嬉しかった。
美と感性
去年の木村伝兵衛も美しかったが、今年はさらに美しかった。
美しさを言葉で表すことは本当に難しい。美しいと思う感覚だって人それぞれ違う。
今回、私は本当に彼の美に圧倒された。それは例えるなら大自然のような美だった。
嵐の夜に吹き荒れる風の音とか、噴火する火山の燃える溶岩だとか、そんな風な美しさをあの木村伝兵衛から感じた。
今回の演出についての騒動で演出家の人間性について言及するツイートを見かけた。
私は別に、かの演出家を人間として好きというわけではない。正直に言えば、すぐ余計なことを言う面倒臭いおじさんという認識が強い。
だが勿論、演出家本人の人間性と作品の良し悪しは別の話である。これが「勿論」でない人も多いのは仕方ないんだけど、分けて考える努力はした方が良いと私は思っている。
作品について話すと、「熱海」以外のRUP絡みの作品は正直「私にはあまり合わないな」と思うことも多い。
ただ、今回の「熱海」と、あの一連のシーンに関して、私は美しいと思った。
私の感じた「美しさ」に嘘はない。あれを美しくないと言えば私の心に嘘をつくことになる。
人の感じた「美」を誰も無かったことにはできない。
「味方ファンが可哀想」と言う人も見かけた。
私としては「味方ファン」として一括りに可哀想だというのは大変乱暴な同情であると思う。無責任なことである。
舞台を観てもいないのに噂だけで遠くから憐れんで同情するなんていうのは本当に救いようがない。何がわかるというのか。
観た上で可哀想だと思うのは勝手だが、ファンの気持ちがわかるなどとは言われたくない。
ファンだってそれぞれだ。同じ舞台を観て全員が同じように感じるはずもない。
「味方ファン」の気持ちを一括りにしてくれるな、と言いたい。決してファン内で優劣をつけたいわけではない。ただ、それぞれ当たり前に感じ方は違うのである。
ホテル
マチソワを観てホテルにチェックインする。
最近は大概、遠征時の宿はキャビンタイプ、いわゆるカプセルホテルだ。
カプセルホテルは小柄な女性にこそ向いた形態のホテルだと思う。東京には女性フロアのある綺麗なカプセルホテルが増えた。
中でも「ファーストキャビン」は個室が二段ではなく、上り下りに気遣う必要がなくて良い。
(説明では「カプセルホテルでもなく」と書いているがまあカプセルみたいなものである。鍵かからないし)
ファーストキャビンは大浴場があるのもポイントが高い。シャワールームもあるが、客席で2時間×2の間がっちり固まっていた身体をほぐしたい。
チェーン数も増えていて、毎回リサーチはするのだが最近はファーストキャビンに落ち着くことが多い。
手紙
ホテルで手紙を書いた。
ただ伝えたいことは「あなたは美しい」という、それだけだった。
手紙は最終的にポエムになる。いつもそうだ。でも千秋楽に出した手紙は自分史上最高のポエムだったと思う。
ただ推しに読んでもらえたらそれで良いというつもりで書いている手紙だが、折角なのでここに下書きの一部抜粋を置いておこうと思う。
昨日の味方くんの木村伝兵衛は最初から最後まで本当に素晴らしく美しくて、感動しました。
命を燃やすような神々しさが全身から放たれていて、その美しさに心から打ちのめされました。
その全てがこの世のものと思えないほどに美しかった。
木村伝兵衛の愛と孤独、その美しさにただ跪きたい気持ちでいっぱいになります。
美しさや感動を言葉で伝えることはとてもとても難しいことです。
どうにかして自分なりに言葉を尽くしても伝わらない人には伝わらない。
それに歯がゆさを感じることも多々あって、いつも悩みます。
それでも私は、どんなに伝わらなくてもいつか伝わる人に出会うことを諦めたくはないし、そのために伝えることを止めたくはありません。
伝わらない人のために伝えることを諦めるなんて悔しいから。いま少しでも伝わっている人のために伝えることを続けたい。
たとえ伝わらなくたって、あなたの美しさにはなんの変わりもなく、そこに美はあるのです。
私は私の感じた美を信じます。
どうしようもなくポエムである。私の伝えたい思いがこのポエムで伝わったかどうかはわからない。
ただあの演技から伝わってきた熱量の一部でも返すことができれば、と思う。
雨
千秋楽は雨だった。
思い返せば、推しの千秋楽だのイベントだのの日は雨か、強風の日が多い。
昨年のトークイベントの日なんて土砂降りの嵐で、私は買った傘を早速折った。「きどみか」だって大抵は雨か強風だ。
千秋楽も雨の中歩いた記憶や風に耐えながら劇場に向かった記憶が強い。
もう雨の方が「味方さんらしいな」と安心してしまう。
今回もコンビニで傘を買った。「風に強い」と書いてあるやつにした。
千秋楽が終わると、雨は止んでいた。
そういうところもまた味方さんらしい感じがした。始まる前に降って、終わったら嘘のように止む。
まるで小説の中のように、天気が感情を表しているんじゃないかと思ったりする。
お土産
帰りの新幹線に乗るため、駅へ向かった。
お土産コーナーでパンダが描いてある「シュガーバターサンドの木」が売っていた。
パンダが描いてあるだけでなんとなく付加価値を感じてしまうのはなぜだろう。
「パンダなんて神戸にも居るのに」とは思ったが、職場ではそこそこウケたのでまあ良かった。
世界の中心は
ホームで予約した新幹線を待つ間、屋根の隙間から名残のような小雨が落ちてきた。
こういう日は本当に世界が彼を中心に回っているように感じる。
「本当に世界の物語は味方良介という存在を主人公にしているんじゃないか」なんて妄想を枕にしながら、私はゆっくりと目を閉じて揺れに身を任せた。